大空襲の中で見つけた花
ある日
空襲警報が鳴り響き
これは訓練じゃない!
ただごとではない気配があせりをよび
直ぐ様防空壕へ
向かったはいいが
どこもいっぱいで
いくら「扉を開けてください」と
お願いしても
開けはしなかった
そうこうしているうちに
空から数多の爆弾が
降ってきて
家や店など建物に火がつき
逃げ惑う人に火がつき
辺り一面が火の海に
「熱い、熱いよ」
兄に向かって少女は叫ぶ
「大丈夫、兄ちゃんの手を離すなよ」
でも、しっかり握っていたはずの手は
人だかりに押され
簡単に離れてしまい
二人は離ればなれに
少女は人混みに押されながら
とにかくその流れに沿った
おそらく、川の方だ
橋が見えてきた
と、同時に
爆弾も空から降ってきた
少女は立って
周りを見渡した
辺り一面
焼け野原だ
橋は崩れ
土手から川の中まで
生きているか死んでいるか
分からない人達で溢れている
少女は自分の直ぐ下で
黒く墨になった
バラバラの人だったものを眺めた
ついさっきまで
自分が入っていた器だ
いつもお母さんや
お婆ちゃんから
「めんこい」と褒められ
その度赤く頬を染めた顔は
かろうじて頭部と分かる
黒ずみに変わり
跡形もない
さっきまで感じた
焼けつくような熱さは
感じない
ふと
土手に転がるそれの側を
少女の名をしきりに呼びながら少年が
通りすぎた
「兄ちゃん、ここだよ」
いくら、ここにいると叫んでも
生きた人には届かない声だった
そうなんだ
あの焼けつくような熱さもない
死の恐怖もない
生者の兄に声が届かない
私は死んだんだ
悲しかった
自分が死んだことよりも
生きていると信じて
妹を探す兄が不憫なこと
さっきまで生きていた自分が
周りの黒ずみと同じく「もの」と
同じように見られたために
兄に気づかれなかったこと
そして
他の死体と積み重ねられて
焼却される
まるでゴミのように
一人一人人生があったにも関わらず
死を悼むことなく処理されること
少女は
ひっそりとここで
透き通った涙を流した
誰にも見られることなく
いや
違った
自分の体の近くに
焼け焦げた草花の群生がある
大分焦げてはいるけれど
一輪だけ助かっていた
その花は
まるで少女の涙を見て
一緒に泣いて
死を悼んでくれているように
思えた
自分のために手向けられた花
そんな感じがして
その花に心を救われた気がした
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