私の中のその人

私は生きたい
もっと色んなことを知って学びたい

そのためならば
憎むべき相手に労りの言葉をかけ
その体を
その心を抱く

私から出る温もりから
愛情を伝え
本当の愛とは何か
心の平穏とは何かを
知ってもらうために

その人は
私が物心ついたときから
いや
生まれたときから私の中にいた

その人は私を支配しようとしていたのかしら
私は思いたくないのに
私の心の中で
私と出会う人を罵倒し
否定、批判し
差別してきた

マイナスというよりも
怒りや憎しみも塊というような存在
それが私の中でずっと
住み着いている

私の中で暴れるその人を制するのに
私は自分の精神力を駆使し
ずっと平静を保ってきた

私ができるのはそのくらい

私は暴力や争いごとが嫌いなはずなのに
そのようなことを見たり聞いたりすると
気持ちの悪い心地よさがする

私はそれが恥ずかしくて
情けなくてたまらない

成長と共に
次第にその人のイメージができあがってきた

怒り、憎悪に満ちた形相の男
しきりに
「にくい」「苦しめ」などなど
呪いの言葉を吐いている

私はいじめを受けた経験をしたが
そこまで怒り憎しみを募らせた覚えはない
けれど確かに
その人は私の中にいる

それが確信となったのは20歳を過ぎたころだった

ストレスが溜まったり疲れたりすると
勝手に顔が引きつるようになったのだ

その顔は
私がイメージで見たその人の怒りの形相そのものだった

いくら医者に診てもらっても
霊能者や占い師に相談しても
原因が不明

ちなみに私は霊感があるらしい
見ることはできないが
感じる力はある
エネルギーの正負を区別するのは得意だ

また、エンパス体質と言って
ヒトの痛みや苦しみを
自分のもののように感受してしまう体質でもある

それらの点を踏まえて
私は現実世界で生きていくのは楽ではない

私がすごいという話をしたいわけではない

私は日頃から
霊魂やらヒトの感情エネルギーをもらっては
心身が辛くなり
その度に浄化して対処している

最近気付いたのだが
私が色んなものをもらって辛くなると
私の中のその人も辛くなり
普段抱いている怒り憎悪に拍車をかけて
さらに私は辛くなる

そうして私は全てを浄化するはめになるのだが
この方の根深い怒りと憎悪まで浄化しきれず
毎日精根尽きる始末

どうやら
この人と私の何かが連動し
心のどこかが癒着しているみたいだ

そこで疑問が生まれる
私の中にいれば辛くなると分かっていて
どうしているのだろうか?

よく分からない
ただなんとなく感じるのだが
この人は私に
ものすごい執着心を抱いていると言うこと

右側にいるお方は右から声が聞こえるけれど
この人の声は左から聞こえる

怒りや憎しみに混じって
最近聞こえてくるようになった言葉
それは
「おまえが欲しい」

私の浄化の力が欲しいのだろうか?
よく分からない

ただ
私に対する強い執着心が感じられて
それがイメージになって
私を襲ってくるようになった

当然私は抵抗した
それでも相手はしつこく付きまとってくる

私の苦がこの人の苦を助長し
この人の苦が私の苦を助長し
負のスパイラルを作っている

何とかしなければいけない
医療従事者への復職どころではない
私の人生が潰されてしまう

この人にされてきた精神的虐待の数は知れない
私の心はこの人に散々犯されてきた
実際
イメージの中でも襲われた

でも不思議なことに
私はこの人が怖くない

というより
哀れにさえ思える

だって、怒りと一緒に伝わる苦しみと寂しさのあえぎを
ずっと聞いて感じてきたから

怒りで返しても怒りが返ってくるだけ
この人のどうしようもない想いを鎮めるにはどうしたらいい?

私は決めた
そして実行に移した

この人への怒りを捨てて
私は許すことにした

そして
想いを汲んで
労りや慰めなどのポジティブな言葉をかけて
その暴れる心を抱きしめた

突き上げる
怒りの形相にあえぎ苦しみながら
私はひたすら言葉をかけ
自分を抱きしめ
私の中にいるその人を強く抱きしめた

右側にいるお方は
私を心配して下さっているのか
「やめてくれ」とおっしゃっているようで
私のしていることに反対している

それだけ私は
危険なことをしているのだろうか

それでも私は
今を生きるために
向き合うべき問題に立ち向かいたいのだ

だから
私のしていることをどうか許して欲しい

そのようなケアを続けてしばらくして
ふと気がつけば
怒りが鎮まり
心の平穏さと現実感が戻ってくるようになった

私の想いが通じたのかもしれない

分かったことがある
それは
この人が暴れていたのは
怒りや憎しみにとらわれて苦しくて
どうしようもなくあえいでいたということ

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