春宵 〜娘が嫁ぐ日に〜
お父さん あの子が見つけた人だから
きっときっと幸せにしてくれますよ
それより炊事洗濯うまくできるか
母の私には少し気がかりなんです
早いものねお父さん まだ子供だと思ってた
あの子が真っ白いドレスを着て
嫁いでいってしまうんですもの
白髪も増えるわけですね
あなたが渋いお茶を好きになり
私が老眼鏡をかけるようになり
その頃ですね
娘が二十歳の誕生日を迎えたのは
今までありがとうございました おからだを大切に
なんて
あの子らしくない言葉を聞いたなら
思わず涙こぼしてしまうんじゃないかしら
そのつもりはなくても…
お母さん 今更何を言い出すんだね
あの子が生まれた時から
嫁にやることは分かっていたはずだろう
それより そこのアルバムでも取ってくれないか
憶えているかい この写真を
小学校入学式のあとで写したやつ
このころから娘が私と風呂に入ってくれなくなってしまったよ
こうして目を閉じるとあの子との思い出が
今 走馬灯のように甦ってくる
長いようで短い私と母さんと
そして無邪気な娘と…
あの子がいなくなってしまうと
これからの私たちどうなってしまうんだろう
掃除がてら娘が歌ってた
鼻歌がもう懐かしいよ
お母さん あの子を呼んできなさい
最後の夜ぐらい家族水入らずで話でもしよう
だけどその前に お茶を入れてくれないか
うんと渋いやつを頼むよ
うまいやつをね
涙が出るほど…
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