ハートの鋳型

愛という言葉は今ではもう ただの身を売る少女だ
何かを売るための言葉になって久しい
深遠さや崇高さのオーラを纏った意味での
"愛" を人の口から聞いたためしがない

中身が消えて箱だけになった言葉を
こぞって振り回す 人生のつまらなさがまぎれるから
僕らは振り回す
夏の夜も冬の夜も虚空に向かって振り回す

そのうち汗をかいて眠たくなる
まるで仕事みたいだ 義務を覚えるのも
疲れるのも 根本的なことは何も変わらないのも

風が紙の吹雪を運んできた
紙切れには 勘弁してくれよ って書いてあった
全くだ これが本当の声だ
そしてそれは全部匿名なんだ

ハートの鋳型で作られた歌たちが
徒党を組み 奔流になって 何千億回と繰り返されたけど
その一つ一つに光を当てたら
きっと見えるはずさ
骨と皮だけになったその歌のあわれな肢体がさ

25/11/24 00:17更新 / 南米こむすび
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