トンネル
異様に大きな満月だった夜は
"明日なったらあれがきっと落ちてきて
地球は粉々になるよ"と
甥っ子にそう言った夜でもあった
僕は車で甥っ子を兄夫婦のもとへ返す途中で
トンネルに入ると甥っ子は眠ってしまった
黄色のライトはストライプになって
車内へしなだれかかるように光を投げる
その微妙な光の加減が
僕の思い出の底をさらい
やがてはそれを暴き出した
それは僕が16歳だった頃
僕たち一家が1日がかりで
大きな街へ車で向かう道すがらだった
兄のかけた曲で 僕は昼寝から目を覚ました
歌の入ってない奇妙な曲で
トンネルのライトを背に
父はそれをお化けみたいだと言った
僕の思い出はどれもこんな調子
どこかに着くよりもその途中にある
そして今 甥っ子の頭の中には
どんな思い出の萌芽があるのか
そしてそれはやっぱり
何かの途上なのか
どこにでもあるようなこのトンネルが
釣り針のように彼の心のどこかに
ひっかかったりするのかな
いつかの僕のように
TOP