追憶の海岸
あれは遠い昔のこと
昭和の子供時代だったな
富山湾の夜の海岸に
家族総出で繰り出し
海岸沿いの闇の波打ち際に
青く発光する蛍烏賊を見た
おちこちと光り
幻のよう
生きていることが
存在が
信じられ
美しく
今がキラキラとして
あの頃の家族は幸福だった
父はまだ発病しておらず
母は若さで明るく健気に
内助の功を立派に果たし
毎日、家をピカピカに掃除し
美味しい料理を工夫してくれた
弟は虫好きで
海や川や森を渉猟し
そして私も元気で男の子顔負けのおてんば少女だった
あの蛍烏賊の記憶は
転落する長い時の前の
鮮やかな家族として
嬌声とともにある海の記憶だ
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