旅先で美味しかったものを思い出せば
美味しかったものは幸せの小さな記憶
バンコクの川辺りのレストランで食べた、
パイナップルのバケットに盛られたスパイシーなタイ風炒飯
コルコタの路地裏で手で食べたマトンビリヤーニには
よく味の染みた半月のジャガイモが眠っていた
あの唸るような旨さ
ジヤガナスプリーの青空レストランで貧しいシェフに見初められた時の
花のように甘く美しいカシミリービリヤーニに溜息をついて
彫刻師のパトラさんの家でバナナの葉っぱの皿の上に載った緑の茄子の
原種のような青臭い旨さのとろける味
奥さんがもてなしでカレーを米と素手で混ぜてくれたのには閉口した
しかしエイッと完食!
傍にオウムがいて部屋の隅に飲用の水の壺があった
北京のホテルの霧煙る朝、
ピータンと揚げパンのお粥は目から鱗の味
インド人家庭でごちそうになった羊の背骨の油で揚げたもの、
これは珍味で髄液をワイルドに啜る初めての味
なあんて、古い旅の記憶を漁ったら
子供時代の母の料理を思い出した
朝の魚市場で買ったキトキトの鰯のつみれ汁だ
骨や内臓を取りすり鉢で荒く潰して
片栗粉で団子にしてスプーンで鍋に落としていく
生姜と葱に醤油のスープで軽く煮た熱々新鮮なやつだった
もう何十年も前の記憶
お母さんが完璧な主婦として母として若い命を孤軍奮闘していた頃の
最後の頃の幸せな思い出だなあ
シャイで真面目で頑張り屋の母の
畳を掃除する完璧さは掃除マシーンのように幼い私には見えた
まず掃き、洗剤のついた雑巾で拭き、水拭きし、最後に乾拭きするのだ
私の幼少は母の守りによっていた
父が家族を裏切る後の数十年に転がり落ちたが
幼少は母の頑張りに守られていた
だから私は苦労人だが地の性格が明るくのんきだ
母の頑張りのおかげだ
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