骨董は思い出の品は水鏡
大切なものの確かさにそっと帰依して
指輪をそっと触る寂しい夜よ
思い出や過去の記憶は幽霊だ
ルビーの指輪は恩師がインド行きの餞にくれた金の細い指輪を
曾祖母の梅文の金の指輪と合わせて溶かし
母がくれたルビーを嵌め込んで
森を象る唐草紋の彫金をして作った
思い入れの深いものだ
くれた人への思いが結晶して私を後押しする魔法の指輪だ
恩師は素晴らしい人で私を応援してくれた
どれほどの人が味方になってくれるこの世だろうか
曾祖母は派手好きでキセルをふかしては酒を嗜み
タンスにはたくさんの着物が呻り
猥歌を作っては陽気に歌い、人と騒いで遊び好きの人だった
私をかわいがってくれた
母は女として苦労した
良妻賢母だったのにもかかわらず無頼の夫に何十年も悩まされた
その痛切なる無念は私の若年期を押しつぶし
今でも私は娘としてその無念の情を負っている
生きる、ということ
その存在の確かさを信じるように
そっと指輪に触る
今、在る、ということ
私という際限を抱いて
精一杯に感じながら立ち、感じ、
出来ることを所作し、時に祈り、立ち向かう
そっと、それでも私はいる
風や空や動いていく雲を愛しながら
旅人の誉れの無一物を眺め、一息をつき
ちいさな家に憧れて、人を思う
人、人、人、
過去を思えば記憶は愛ばかり輝き
惜しむのもそれだけだから
嘆きの小箱よ
小さなため息の風よ
そっと指輪をつければ思う木のようでありたい
これは夜の木の思念だ
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