カタカタカタカタ、カタ、ツムリ
カタカタカタカタ、カタ、ツムリ、
わたくしは蝸牛でございます
わたくしの殻は薄くて柔らかい
冬には眠りいくつもの夢を見る
生きることにうなされませんように
わたくしの命は短いのだから
わたくしの宿は紫陽花の青と紫の
混じる袂(たもと)でございます
ああ今、
幼子が面白がって
わたくしをつまみ
甘いピンクの爪で潰しました
青い雨が黙々と降り
世界はとっても静かです
わたくしが死んだことなど静けさにくるんで
お葬式を出してください
いつも雨音が音楽葬なのですから
弔いの悲しみは無言の中に層を作り
紫の煙とたなびいてしなを作り、
心の水底でうずくまり、沈殿して、
まわりに流れる雨の斜と、
遠いどこかの幻の熱い砂丘の風紋と響きあい、
恋焦がれて呼び合い、
流されなかったドラマをこの大空の天蓋に映画上映します
それはわたくしの最期の夢の物語、
それを見て涙するあなたの頬の濡れが、
この鬱蒼としためぐる世界のささやきの物語ののちいさな栞です
さよなら、さよなら
カタカタカタカタ、カタ、ツムリ
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