時は流れて

子供の頃は高度成長期で
道路の突貫工事があちこちで行われていた
空き地には洞穴のような土管が転がり
砂利道は溢れ
子供たちは空き地で遊んだ
あのトゲトゲした薔薇線でくくられた野原よ
ノラ犬のうろつくゴミ処理場よ

大型スーパーはあまり多くなく
夏の夜などは笛を鳴らす
豆腐屋さんが軽トラで回ってくるのが楽しみだった
大好きなおじさんに蜜柑をあげて
豆腐をおまけして貰ったりした
てらてらと光り泳ぐやわな白よ
水桶に差し込まれたおじさんの手よ

竿竹屋さんの塩辛い連呼が町内に鳴り響き
冬は焼き芋屋さんが来るのが楽しみだった
新聞紙で包まれたホカホカの薩摩芋と
おじさんとの挨拶よ

お父さんの友達の海外旅行のお土産の
水着姿の金髪おねえちゃんの爪磨きやトランプが
家に普通に転がっていた

贈答の高級酒が棚にはぎっしりだった
お父さんは家にあまりお金を入れない人だったが
小さな子供の頃は、母が隠してくれたせいで分からなかった
母はパートで働き、料理学校出の
精一杯の料理を作ってくれた
当時は未だハイカラだった洋食の数々
ロールキャベツやミートソース、ハンバーグ
白アスパラのサラダ、
鰹節から引いておろして出汁を取る女の懸命よ
10数年の母の忍耐と挫けたその後の何十年の家族の冷戦よ
人は頑張れるし、人は挫ける
子供を守ろうとして挫けた母の頑張りに
私は答えられていない
歳を取った母は若い頃
シャイで頑張り屋でふわふわと優しい女だった
苦労人らしく辛口の毒舌の現実的な女になった
でも今でも本当はシャイで優しい女なんじゃないか
この世界が厳しく
子供たちが冴えないから唇をきつく結んで
生きるって踏ん張ることだから
痛かったら体がこわばるように

愛は漂ってどこに行くのか
父は死んでしまった
生活がはちきれて
心がひりひりしながら
世界を操縦する孤独よ
そう思えば愛は血だ
精一杯の命の証は存在そのものだ

あの子供の頃、ボクオ、というあだ名の少女と親友だった
団地でお別れをした後、お互いの名前を精一杯呼び合った日々よ

マッキー!
ボクオー!

マッキー!
ボクオー!

マッキー!
ボクオー!

その声は団地で有名だったらしい






23/01/08 19:11更新 / 湖湖
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