夜の波に
誰もいない海辺よ
夜の波にいつの日かの
ジェームス・ディーンの憂鬱が
生ぬるい風となって這い私の頬を撫でる
それはいつかの手に入らなかったことが香る鏡の破片
記憶の火花よ
愛したかったと嘆けば愛していると打ち返す波よ
やせた腹の記憶をあやす
骨がきしむほどに抱きしめてよ
夜の水平線にそっとくすぶる無念と甘い痛みが
はじける波に押し寄せて
肌に呟きの刺青となって、ひりひり
ふふふ
青春という壮麗な時の棺よ
白米におかずはおまえだけ
きしり、きしり、と夜に歯を動かす
無残に散ったおまえの残骸が惜しまれて
それは壊れてしまったけれど
あなたが大切だから
私も大切で
壊れた音が永遠にきしきしと鳴っている
握れなかった手よ
それが黒くざわめく海に私を呼ぶから
私は裾はためかす亡霊となってこの闇を飛ぶだろう
風がからからと風車を回し
読まれない詩片の記された手紙となって
私の心をノックする
そんな思いに風くるまれた夜の心臓が脈打つのだ
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