あたらしいすみか
今日で23回目の朝
レースを刺す日差し
夕暮れのあやめ色
電線越しの月
どれもあたらしくてなつかしい
わたしはここに来たかったのかもしれない
ここに来るために船を漕ぎ続けたのかもしれない
大らかな時間にとぷり、と足をひたしてみる
あたたかい水のようなそれをやさしく蹴りながら
中へ
もっと奥へ
頭よりすっかり上に水面があるところまで来たら
あんなに鳴り響いていた声が嘘だったみたいに
きこえない
鳥と風と自分の音だけ
あとは…時々、冷蔵庫の鳴き声
それだけでこんなに充ちる
『これが欲しかったんだ』
口に出すと夢みたいにきえてしまうかも
それでもこの台詞のかたちをゆびでなぞるのをやめられない
とがめられるかもしれないとおもいながら
たしかめるように何度も
胃のてっぺんのあたりがぶわり
ふるえる
晴れ晴れしさに息が詰まる
見つけたきらり、光る石を
誰にも後ろ指をさされないように
三日月みたいな目にさらされないように
ここにそっと隠す
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