屋久島の人
ふっと思い出す人
半世紀昔のあの人のこと
たまたま屋久島の千年杉が本に出ていた
行きたいとずっとあたためていた屋久島に
あの人は帰った
あれは大阪で働いていたとき
大阪は四国九州からの女子が
大勢働きに来ていた
同じ職場に
細く目の大きな彼女が配属された
わたしはいろいろと仕事を教えた
国の屋久島のことはあまり話さなかった
エキゾチックな南の島の女という面立ち
行ってみたいなと若いときから思い続け
それは空想の島になる
親が病気になり
その看病で帰らないといけないと
彼女は退職して屋久島に帰った
そのとき見せた涙
わたしの手をとり嗚咽した
あの人のいない売り場は
何か抜けたようだった
それからわたしに手紙が届いた
あの人からだった
わたしのことを理想の人と書いていた
兄のように思い
慕っていたと
いまごろ打ち明けるなよ
離れてからそれは淡い恋の燃えカスになる
遠い島ではどうしようもなく
あれからあの人はどうしているのか
みんなみんな青春の街から帰郷して帰らない
あの手紙も探したがどこになくしたものか
いまはあの人の名前も怪しい
みんなみんな忘却の彼方だ
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