祖父の煙管
亡き祖父は煙管でタバコを吸っていた
桔梗という刻みタバコ
仏間で暮らして
いつもカンカンと部屋から音がする
灰皿は丸い金属製で
ゼロ戦のプロペラを固定する金具とか
どこからそんなの持ってきた
それは煙管で吸った吸い殻を
灰皿に落とすときの音だった
叩き落とすのはいいけど
たまに畳の上に飛んだ
ボケた祖父はお構いなしに
畳でくすぶっている吸い殻に
また煙管を近づけて火をつけていた
あちこち畳には焼け焦げた跡がある
年寄りは危ない
まだ赤く燃えている吸い殻を手で拾っていた
やることなすことこれだ
祖父は煙管の掃除もした
こよりを作って雁首と吸い口を外すと
詰まったヤニを取っていた
それが面白いと子供のわたしは傍で見ていた
煙突掃除みたいだな
火事になったら怖いので
晩年は家族がタバコも灰皿もライターも隠した
それでも吸うこともタバコも忘れて
すっかりと認知
あの灰皿は捨てたか
いまは祖父の思い出の遺品すべてが整理され
あの煙管どこいった
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