線路はがたごと子守歌
電車とは言いたくない
旅は列車がいい
通勤の電車ではなくローカル線
あえて列車と呼んで
そこのシートにわたしは身を沈め
本を読むでもなし音楽を聴くでもなし
旅の風景を絵画展のように見ていたいから
後方に飛ぶ木立や牧場や踏切を
ただなんとなく眺めていれば
線路のガタゴトが子守歌になって
なんだか眠くなってくる
これは車内で眠る人みんなが
その音とリズムに安心して
すやすやと寝入ってしまうのだとか
ほどよい揺れは揺籃のようで
ガタゴトは遠いふるさとの
幼いころの深淵の記憶
乗り過ごすから眠ってはいけないと
閉じた瞼をまた開く
山が見え海が見え鉄橋を渡る
走るという変化に富んだ写実の画が
初夏の緑の絵具を厚く盛る
と
列車はある駅に着いた
ここはどこだろう
単線だから上り下りの列車の待ち合わせ
そんな各駅の旅はわたしを退行させて
子守の背中にいるような
顔の見えないお下げ髪の
娘の背中のようないま列車の座席に抱かれて
眠り眠って夢の中
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