線路はがたごと子守歌

電車とは言いたくない
旅は列車がいい
通勤の電車ではなくローカル線
あえて列車と呼んで
そこのシートにわたしは身を沈め
本を読むでもなし音楽を聴くでもなし
旅の風景を絵画展のように見ていたいから
後方に飛ぶ木立や牧場や踏切を
ただなんとなく眺めていれば
線路のガタゴトが子守歌になって
なんだか眠くなってくる
これは車内で眠る人みんなが
その音とリズムに安心して
すやすやと寝入ってしまうのだとか
ほどよい揺れは揺籃のようで
ガタゴトは遠いふるさとの
幼いころの深淵の記憶
乗り過ごすから眠ってはいけないと
閉じた瞼をまた開く
山が見え海が見え鉄橋を渡る
走るという変化に富んだ写実の画が
初夏の緑の絵具を厚く盛る

列車はある駅に着いた
ここはどこだろう
単線だから上り下りの列車の待ち合わせ
そんな各駅の旅はわたしを退行させて
子守の背中にいるような
顔の見えないお下げ髪の
娘の背中のようないま列車の座席に抱かれて
眠り眠って夢の中


24/07/11 06:09更新 / キム ヒロ
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