途絶えている手紙

青森の施設にいる高齢のおふくろに
三日に一度の手紙を書いていたのが
文字が見えなくなったというから
もう書かないで何か月か
あれほど何年も書いて送った手紙だが
何百通になったろうか
耳も遠く目もかすれ
ベッドで半ば寝た切り生活のおふくろは
百歳を越えたときから
ラジオも音楽もテレビも見られず聴けず
面会する人もなく
たまに来るのは差し入れの妹かヘルパーさん
しんと静かなサ高住の個室では
生きているものの声もなく
霊安室のようだと言う
そんな退屈しているおふくろにただひとつ
わたしの書いた手紙が楽しみであったのに
それで世界のニュースも知り
日常の生活を知り
季節の花の写真も添えて
それが情報の窓であったのに

いまはケータイ電話だけが
身内とのやりとりだが
声も聴こえず一方通行の会話だ
それでも繋がっていると思えば安心で
見えない暗黒の部屋で
閉じ込められて出られない
誰か車椅子で外に散歩に行けないのか

母の日にはカーネーションも送ったが
それも果たして見えているのかどうか
今年は103歳になる
長生きするのは辛い
誰もいなくなる
途絶えた手紙で
通信遮断
社会と途絶することもまた寂しい
長生きはするもんじゃないと
おふくろはそう思うか

24/06/11 06:53更新 / キム ヒロ
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