親父のいた上海は
若き親父が出征した中国の
上海に上陸したのが昭和13年
かの南京事件の後に武漢三鎮を攻略し
南昌で迫撃砲弾で負傷
三日三晩意識なく奇跡的に生還し
本国に傷痍軍人で帰還した
親父が初めて海外に足を踏み入れたのが
戦争さなかの中国で
この上海のどこか
いま息子は年老いて
戦災の傷跡もなく繁栄している大都会で
たまに見る爆撃の記念碑だけで
どこかしこ平和そのもの
驚くほどの高層ビル群と
地下鉄網とデジタル社会を見たら
若い親父はおったまげたろう
重機関銃を背負い
独立機関銃部隊で前線へ
相棒は何人も敵弾に斃れた
悪運強い親父は三度の死地を潜り抜け
戦後九十四で亡くなるまで
ボケてもよくその中国戦線の話はした
そうか ここが上海か
わたしはコロナ後の戦地の上海に
恐々と上陸した
経済は回っていて
コロナどこ吹く風かと
逞しい中国人の生の姿をそこに見た
歴史がどうあろうが
政治がどうあろうが
暮らしは厳然としてただあるだけだ
それにしても暑い
真夏日の上海にも紫陽花は咲いている
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