食べ残すな

孫に口を酸っぱくし
食べ物を粗末にするなと叱る
食べ残すなと
わたしは祖父母にそうしてしつけられた
だからいまもご飯粒ひとつ残さない
皿に残った汁も飲み
お椀も白湯で洗うように飲む
それは禅寺でもそうだ
たくわん一切れ残して
それで茶碗を拭いて
少しのぬめりも残さない
孫にはあまりきつく言うと
彼は息を切らせる
過呼吸になってもいけないと
それからはやんわりと注意する
すると食べ残すことに罪悪感か
これだけとわたしに見せにくる
祖母には弁当の蓋に米粒ひとつつけても
怒られたのがいまに続く
それはいまは高い米だが
昔から喰えない時代を過ぎてきた
明治の女の飢餓体験からか
孫にも言う
そのうちご飯の食べられないときが来る
震災 恐慌 戦争
好き嫌いは言っていられないほど
空腹で泣くのだ
おまえだけは飢えさせない
そのために何でも食べるのだ
いいか
じじが言ったことを思い出せ
近未来に来る破局に備えよ
わがままは許されない
そんな甘い人間から死んでゆく
そのときでもおまえだけは
生き残ってゆくために


25/11/13 07:10更新 / キム ヒロ
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