諸縁放下

10年前に定年で第二の人生と
上京してきたとき
親も姉妹も友人も仕事も投げて
老後の家出のように飛び出してきた
しがらみから糸をほどき
繋がりも絆もいらないと
住所も教えなければ電話番号も
そうしてみんなあいつはどこに逃げたと
噂もしなくなったころに
居場所のハガキを出した
行方不明で息子も親も知らないなんて
出てくるときに
動物は死に場所を求めて
ふらりとどこかにいなくなる
そんな比喩を話したら
本気で心配していた人
冗談なのか本気なのか
みんなはすぐに帰ってくるさと信じない
それが10年あっという間
それでもSNSでは繋がり
年に何回かは帰省して
みんなと呑んだり昔のように旧交をあたためる
名前で探して昨日も郷里の後輩から
フェイスブックで繋がる
どうしてた いつ帰ってくる
今度来たら会いたいと
年老いてくると
周辺が欠けてゆき
なにかと退屈 話し相手もいるなと
それで切れた糸をまた繋ぐ
自由と孤独は同居して
飛んで行く凧の単独行
それがよかったのじゃないのか
帰りたい帰れないという歌があった
いまは家族に縛られて
身動きはとれないが
いつか帰って老けた仲間たちと
肩を抱きあおうか
この放浪の旅から引き返し

24/11/23 07:08更新 / キム ヒロ
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