恩師

学生の頃

怖いけど優しい先生がいた

顔が本当に怖かった

でもどこか生徒への愛が感じられた

私はその先生の授業を受けたことはなかったが

先生は私の部活の顧問だったので
接点が多かった

演劇部だった私は

文化祭が近づくと
毎日放課後遅くまで練習をした

今にして思えば先生だって
演技に関しては
間違いなく素人だったはず

だけどすごい熱の入れようで
演技指導に余念がなかった

ある年
私は主役をもらった

嬉しかった
頑張った

だけど文化祭の1ヶ月前
父に突然の異動辞令が

そして私は舞台に立つことなく
その街をあとにした

旅立つその日駅のホームに
演劇部の面々がみんな集まり泣いてくれた

先生も一言言った
「志月のことは忘れないよ」

それから15年の時が流れ
なんと私はその街とは違う街の
スーパーの食品売り場で
その先生と再会をすることになる

お年を召した先生
私もそれなりに年を取った
しかも全然違う街
だからお互い気づかなかった

同じ台のすぐ横で
買い物袋に食品を詰める先生が
奥さんに話しかけたその声を聞いて
気付いた私

「◯◯先生ですか?」

そう声をかけて名前を名乗ったが
先生は私を思い出すのに
しばらく時間がかかったらしい

志月のことは忘れないって言ったのに
世の中ってそんなものかな

でもその後先生は
年に何回も手紙をくれるようになった

「君は今お幸せに暮らしているのでしょう
お子さんは大きくなったでしょう
今度ゆっくり話しましょう
昔話に花を咲かせるのもいいね」

そんな先生の暖かい言葉がとても嬉しかった

そして私が一人になると 
先生からの手紙はさらに増えた

私の身を案じてくれた
私の幸せを願ってくれた

「学生の時の真っ直ぐで屈託のない君の笑顔を思い出します
これからもあの頃のままの君でいてほしい

困ったら話を聞きます
いつでも話してください」

そしてその後

「僕は83歳になりましたが
病気一つなく過ごせていることに心から感謝する毎日です」

その手紙を最後に
先生からの音信は途絶えた…

国語の先生だから
すごく達筆だった

その達筆な文字で
温かい言葉で
いつも私を励ましてくれた

そんな先生からの手紙は
今でも私のレターラックの
一番前列に残っている

遠い昔の記憶
他人だけど強い絆

先生は恐らく親よりも
私のことを案じてくれた

そんな先生は
恐らくもう
同じ世界にはいない



24/07/12 19:52更新 / 志月
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