父のこと
他院にて検査後
元の病院に搬送される
介護タクシーに乗り込むための
ストレッチャーの上で
父は沈黙の中で生きている
頭も体も暖かそうな毛布に
綺麗にぴっしりと包まれて
その姿はまるでスヤスヤ眠る赤子のようで
閉じたまぶたは開くことなく
そしてまるで反応もなく
でも時折手を動かし
むせるような咳をする
その度
あぁ生きてるんだなと
心の奥で安堵する
介護タクシーの運転手は
意外なほどに愛想がなかった
でもそんなことはどうでも良くて
明日からリハビリが始まるというが
意識もなく起き上がれないのに
どうやってリハビリをするんだろう?
でも少なくとも
口をきけない今の父は
以前のように反抗して
技士さんたちを困らすことは
もう今後はないだろう
齢88歳
毛布に綺麗に包まれた父は
本当にとても小さかった
私がまだ学生だった頃
父の目線は上だったはず
それがいつしか
私とほぼ同じになって
今はただ昏々と眠る
神様はいるかもしれないし
いないのかも知れないが
でも今はそれよりも
病室にて
昏々と眠る父
それが現実
それが全て
先のことはまだ見えてこない
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