車窓のタチアオイ

灼熱の日を受けて進んだ
不定形なままの毎日
溶けてぐにゃぐにゃした脚で
浅い呼吸を踏んで渡る

ふらふらと乗った新幹線に
乗せられるまま最後まで行く
目的地はもうすぐそこなのに
どっちのドアが開くかも分からない

車窓の向こうに揺らぐタチアオイ
茂みのはじっこ 見送るように
こちらを覗いているんだ

やっと手にした切符は
疑いようなく 君のもの
行くしかない 行くしかないよ
そうしていくのが人だから
本当の心 震えて 見透かして
虚勢の姿 見つめた タチアオイ
そんなに泰然と


そよそよとした風が運んだ
緩やかな日々を想えば
空っぽの腹は 空っぽの頭は
不意の揺さぶりが嫌に響く

景色の奥 佇むタチアオイ
居心地のよい緑の住処は
左へ左へ 流れていく

すべて去っていくばかり
窓の外は過去のことだ
行かないでと願うことすら
分厚いガラスが阻むこと
心地よく効いた冷房が
いるべき場所を教えてくれる
覚悟のような 諦めのような
眼差しが宙を見る

幾つも田を突き抜けていく新幹線
ゆっくりと過ぎていくばかり
タチアオイ
心配そうな眼差しは
絶えず僕を見つめている

24/06/20 20:38更新 / でんしん
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