泥濘に嵌まるやうにして

もう二進も三進もゆかぬどん詰まりに追ひ詰めなければ
何とも居心地が悪い俺は、
何時も進んで泥濘に嵌まるやうにして
藻掻きながら泥濘に呑み込まれるといふ快楽を本能的に知ってゐる。
それはいかにも卑怯な事であり、
現実逃避の一つの形態なのだが、
それを知りつつも、一度泥濘に嵌まってしまったならば、
その居心地の良さから遁れる事は温い世界が大好きな存在にとっては不可能と言ふもの。

そして、俺は泥濘に嵌まるやうにして
存在に軛を課し、
その事により、存在の尻尾を捕まへやうと
手抜きを行ってゐるのだ。
生きる事に対する此の手抜きは
面倒ぐさがりの俺にとってはとてもよろしく作用し、
さうして図太く此の世に憚る悪人と化して生き延びるのだ。

例へばそれはこんな構図をしてゐるのかもしれぬ。

俺は蜘蛛の巣に捕まった羽虫の如く、また蟻地獄に落ちた蟻の如く、
死の陶酔の中で酔ひながらの恍惚の中、死を迎へるに違ひない。
囚はれものの狭隘な世界の中で全宇宙を知ったかの如き錯覚の中で
一時の生を繋いでゐるのだ。

最初、泥濘としか思へなかったものが
何時しか底無し沼へと変はってゐて
最早其処から出られぬ俺は
その二進も三進もゆかぬ状況を是認してゐるのだ。

つまり、そもそも俺は敗者でしかない。
敗者でしかないために、何の向上心もなく、
唯の泥濘が底無し沼へと変化しても
それを是認できるのだ。
それは何とも哀しい事には違ひないのであるが、
さうである俺を俺は心の何処かで安寧を持って歓迎してゐるのも確かなのだ。

そもそも俺は俺である事に胡座を舁いてゐないのか。
恥の塊でしかない俺が俺である事に胡座を舁くなんて
全く信じられぬと言ひたい処なのであるが、
しかし、偽者でしかない俺は、
鉄仮面の如く何食はぬ顔で俺である事に胡座を舁いてゐても
何ら不思議ではないのである。

さうして世界中に陥穽を仕掛けたかの者の餌になればいいのだ。
俺が底無し沼の上で胡座を舁いてゐるのを知らぬは仏ばかりに
何にも知らない筈はないのであるが、
其処は既に俺に対して俺が開き直ってゐるのかもしれぬ。

どうあっても俺が俺として此の世に棲息したいのであれば、
則天無私でなければ、他に対して申し開きが出来ぬではないか。

これが時代遅れと言ふ輩は、
既にZombie(ゾンビ)と化してゐる。
つまり、既に死んでゐるのだ。


19/12/18 17:32更新 / 積 緋露雪
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