闇に紛れて
この闇に紛れてまんまと逃げ果せたと思ふな。
何故って、闇自体がお前だからさ。
両の目玉をかっと見開き、
闇の中でも気配でものの存在が解かるお前は、
さぞかしをかしいに違ひない。
ところが、俺はかうして提灯を持ち
お前の内部を穿鑿してゐるんだぜ。
光に照らされる気分はどうだい?
さぞかしちくちく痛いだらう。
光の照射を闇たるお前の急所に当てて、
さうしてお前を殲滅するのさ。
さもなくば、俺がお前に喰はれちまふのさ。
此の世は所詮弱肉強食。
闇が勝つか光が勝つのかのどちらかしかないのだ。
闇に光あり、光に闇ある世界は既に終はりを告げたのだ。
闇の中で提灯が照らし出しものは
蛸の足のやうな吸盤がある奇怪なもので、
其処にお前のアキレス腱が、つまり、急所がある筈なのだ。
もういいだらう。
さうして虚勢を張った処で、お前の内部は全てお見通しなのだ。
闇が住む世界は既に駆逐されて、
お前は影としてのみとして此の世に存在を許されしものなのだ。
ならば、お前は、此の世からおさらばして、
さうして天の太陽を滅ぼすべきなのだ。
それとも太陽風に当てられて
お前はAuroraのやうに自己発光しちまった訳ではあるまい。
お前にAuroraのやうな美は必要ない。
お前にはGrotesqueな深海生物の異形がお似合ひだらう。
黒色の中にでも逃げ込んだのぢゃあるまいし、
此の世を黒に塗り潰し、
闇の復活を目論むその野望は、
悉く失敗する運命なのだ。
だが、地獄は甦生した。
お前は地獄へ堕ちる魂に飢ゑ、
その眼をぎらぎらと光らせて、
闇の中へと引きずり込むものの出現を俟ってゐる。
しかし、さうは問屋が卸さない。
俺がかうして提灯で闇を照らせば
闇は光から逃げるのみ。
然し乍ら、提灯の灯明は一陣の風に吹き消され、
残されたのは何処までも広がる闇ばかりなのであった。
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