《世界》を握り潰す

彼はまんじりともせずに只管、眼前の闇を凝視す。
――何故か、《吾》が憤怒にあるのは!

さう自問せし彼は闇の《世界》を無性に握り潰したくて仕方がなかった。

――《世界》? 誰かに呉れちまえ!

《吾》ながら何故かをかしかったので、
思はず苦笑せし。

――かうして《吾》は滅んでゆくのか……。

彼はさう独り言ちて、
むんずと手を伸ばして
《世界》を握り潰せし。
そして、《世界》は憤怒の喚き声を発せし。

――何する《もの》ぞ。《世界》と呼ばれし《吾》は、お前なんぞに変へられてたまるか!

虚しき喚き声のみ残して《世界》は《存在》を始めてしまった。

その時、《世界》は一言呻いたのだ。

――あっ、しまった。

かうして《世界》は《存在》を始めたのだ。
しかし、未だに《宇宙》は誕生せず。

後は「神の一撃」で、
《宇宙》が始まるのを待つのみ。

しかし、《宇宙》は産まれたがらず。

而して《世界》は《宇宙》転変して開闢せし。

だが、再び、業の中に《世界》は堕ちし。


19/11/02 07:15更新 / 積 緋露雪
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