何だかわからないきれいなもの

少女はその朝 いつものように
岸につながれた小舟の上で
ゆらりゆられて遊んでました
小舟の上でからだ動かす
そのたびに左右にゆれる
それがとっても面白くて
同じ動作繰り返してました
いくつも島を浮かべた海は
いつものように穏やかでした
真夏の陽射しはその朝も
いちだんと熱く照りつけてました

 その時 少女は西の方の空に
 何かピカッと光るのが見えました
 あんまりまぶしかったので
 思わず目をつぶってしまいました
 もう一度目を開けてみると
 さっきと同じ方向に
 変な形の雲が出てきました
 下から上に昇ってくみたいな
 何だかよくわからないけど
 とってもきれいだなあ なんて
 少女はぼんやりそれを見つめてました

家に帰ると おかあさんに
きれいな雲のことを話しました
おとうさんにも話しました
おじいちゃんにも おばあちゃんにも
でも 誰にきいてみても
それが何なのかわかりませんでした
ただ とってもきれいだったことが
少女の心に残ってました
お昼ごはんが終わったあとで
またそっちの空を見てみると
まだモヤモヤしてるみたいでした

 少女はやがて大人になり
 あの雲が何であるか知りました
 あそこでどんなことが起こったのか
 あのきれいなものの下で
 どんなむごたらしい光景が
 映し出されていたのか
 何もかも知ってしまいました
 とても悲惨で残酷な事実
 それを知ってしまった彼女の中で
 幼い日に見た景色の美しさが
 より鮮やかに迫ってきました

24/08/28 20:23更新 / 春原 圭
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