師 嘆きて曰く

我 志學にして黌室にあり
比來 春情を覺ること莫莫たる
或る時 我等講學し
師 乃ち大いに嘆きて曰く

 「『戀』と言ふ文字 古には
 糸し糸しと言ふ心と書く
 其れ當に戀なるべし
 然るに今 『戀』を『恋』と書く
 汝を好く 併し此の人も亦た好く
 何れも亦たの心なり哉」と

我 師の言を宜とせずも
若輩にして辯ずるを得ず
然れども我 人を好くこと幾度
『戀』なるか 或いは『恋』なるか
未だ自づから識る能はず

24/08/11 19:42更新 / 春原 圭
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