今度は強い愛が

お客様の都合で通話できない電話に
妙にいても立ってもいられなくなって
キミのマンションへ車飛ばしてた

 カメラマンとして芽が出ないまま
 無数のパネルやネガに埋もれた四畳半
 酒びたりの僕に愛想を尽かしたキミが
 部屋を出て行ってからわずか半年
 シナリオ大賞グランプリを手土産に
 デビュー作のトレンディ・ドラマが
 時流にうまくマッチして大ヒット
 一躍売れっ子放送作家
 「惰性の恋を断ち切ったあの日から
 身軽に飛べるようになった気がします」
 公園のクズカゴで拾い読みした
 女性週刊誌のインタビュー記事で
 キミのそんな発言を見つけた頃
 僕はレンズ代やフィルム代はおろか
 アパートの家賃さえためまくって
 明日のビジョンも見つけられないまま
 途方に暮れる日々を送ってた

ガード下で野宿を繰り返してた頃
当時の仲間たちを撮った写真が
ある日突然 世間に注目され
仕事が忙しくなるのと前後して
キミの噂を耳にしなくなったのは
僕がテレビも週刊誌も何もかも
見る暇がなくなったせいと思ってた
しだいに加速を増してくばかりの
消費のサイクルのうねりの中で
とっくにキミが過去の人になったこと
僕が知らされたのは 皮肉にも
いつか見た あの女性週刊誌の
同じインタビュアーからだった

 何年かぶりに再会したキミが
 まるで あの日の僕のように
 無数の原稿用紙のクズに埋もれて
 ウィスキーに酔いつぶれてた
 あの日 キミが見捨てた僕のように

机に突っ伏して眠りこけるキミを
抱きかかえて ベッドまで運ぶ
目を覚まし 僕を見つけたキミに
「惰性でない恋 また始めないか?」
そう言ってやろうなんて思いながら
哀しい寝顔 じっと見つめてた

 消費のサイクルのうねりの中で
 いつか 僕が過去の人になっても
 今度は断ち切れない 強い愛が
 僕たち 育てていけるに違いない
 そう思いながら キミの寝顔
 いつまでも じっと見つめてた

24/06/21 19:53更新 / 春原 圭
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