豊かさの濃霧

エアコンがぬくぬくとした部屋では
僕の世界は生まれてこないこと
気づくのはまだ先の話だった

 文学賞受賞作一本で
 四畳半から3LDKに
 来年印税が入ってくれば
 世田谷に豪邸が建てられそう

社会の底辺 じっと見つめるのが
売れない頃からの僕の作風
今手がけてる話も それは同じ

 なめらかに進んでくれないペン
 安楽椅子にふんぞり返りながら
 貧しさにあえぐ主人公の生き方
 作り出せるはずなんてないのに

豊かさという濃霧の中で
ハングリーがなくなりかけてること
気づくには まだ時が必要だった

24/06/10 19:00更新 / 春原 圭
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