哀しきジミ婚ストーリー
「披露宴はとり行いません」
写真ハガキのキミのとなりには
僕の知らない男が寄り添う
ウェディング・ドレスもケーキもない
普段着のままのキミの笑顔は
あの頃と何も変わらないのに
「プロポーズされちゃったんだ…」
ブランコにそっと腰かけたキミが
ポツリとつぶやいたあの夜
なぜか僕は恐ろしく冷静で
そいつと自分の条件の差を
頭でひとつひとつ比べてた
「そう… 幸せになれるといいね」
あまりにアッサリと答える僕に
キミが寂しげな顔をしたこと
薄暗い公園の灯りでは
僕には確かめることできなくて
そのまま 会話は途切れてしまった
ゴンドラもスモークもキャンドルも
ライスシャワーも賛美歌もない
ご祝儀も祝電も引出物も
ヴァージン・ロードもブーケもない
婚姻届一枚きりの
ジミ婚はキミのアイデア
僕とあいつのはざまで揺れてた
キミをあっさり見送った僕は
ダスティン・ホフマンになる機会さえ
与えられることもないままに
失って初めて気づいた想い
ひとりぼっちで持て余したまま
写真ハガキ一枚みつめて
こぼしたミルクを嘆き続けてる
「幸せに… なれるといいね」
ひとり ポツリとつぶやく僕に
もう キミは顔を曇らせはせず
僕の知らない姓を名乗りながら
新しい生活に歩き出して
変わらない僕はひとり残されて
「プロポーズ 受けることにしたわ」
一言に初めて気づいた想い
待ったをかける暇もくれずに
電話がプツリ切れたのが最後さ
そのあとの僕の取り乱しようは
もうキミの知るところではなくて
「披露宴はとり行いません」
純白のドレスを纏ったキミを
さらうシーンはシナリオにはなくて
クライマックスは迎えないままの
ジミ婚ストーリーのラストに
僕の出る幕は もうなかった
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