夜行列車のスクリーン
夜行列車は定刻どおりに
西へ向かって動き出した
僕は真っ暗な窓のスクリーン
リバイバルのシネマ映し出してた
ケースにしまい込んだまま
押し入れに眠ってるトロンボーン
何年かぶりに出してみたあの夜
接待先のパブ 午前一時
タクシーで乗りつけた暗い部屋
グレーのスーツ ほろ酔いの気分
口にくわえて大きく息を吹く
下の階から「うるせえ!」の一声
磨いてもらえないくすんだ金管
手で撫でながら寂しいうすわらい
音符のことしか知らなかった僕
最後の追い出しコンパの時に
キミが言ったことの意味もわからず
妙なもの欲しがるんだな なんて
学ランのボタンひとつちぎった
卒業式以来それっきりの
くすんだ校舎 散らかった部室
セーラー服にショートカットの
どこか内気で人見知りな
そんなキミしか僕は知らない
出席の方にマルをつけて
返信ハガキをポストに落として
僕は足早に駅へと向かう
アタッシュケース 満員電車
いつもどおりの一日が始まる
30分前に出社したなら
システム手帳をめくりながら
受話器をとってボタンを押す
そして分刻みの予定を組んで
いつもどおり得意先へ向かう
三塁側のスタンドでは
ヤケドしそうに熱い金管
同じマーチを何度も奏でてた
3年続いたそんな夏も
合計3日しかなかったけど
グラウンドのやつらと同じくらい
必死に戦った僕たちだった
むなしく楽器を片づけながら
でもみんなとてもいい顔してた
その笑顔の中に キミがいた
夜行列車は 定刻どおりに
西の終着駅に到着した
僕は真っ暗な空のスクリーン
続編のクランクイン待ちわびてた
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