序章へ
なんとしても描きたいんだ。20歳頃の、つまりは、大人になったばかりの可愛い女の子を主人公にした、長編散文詩を。そしてそこに、かつて体験した大切なことを全部、ぜーんぶ詰め込みたい。そのためには急いではいけない。
一夜に書いてしまおう。書けなかったら、よし明日の朝こそ(!)そんな気持ちでずっと書いてた気がする。とにかく遮二無二、文字を走らせないと物語が立ち上がらないと思っていたよで。
けれど実際には、ここからどう広げていこっかな~、みたいに心を泳がせている折りにこそ、物語の息吹とのよりダイナミックな交感が生まれるんじゃないか。
つまり僕は書き過ぎていた、と思う。
7月までに描ければいいと、そんな悠長な気持ちで。それこそ短編小説を描くつもりで腰を据えたい。
と言いつつまだ、たとえば7連目から8連目なんか飛躍させすぎているかもしれない。
推敲を繰り返しながら、じっくりと。
☆
ささやかな寺に齢20の娘が一人。左近くにアオバハゴロモが止まったから、今日は青緑の日と命名しようと彼女は笑う。
それでしかし、彼女はその小さな羽虫からBさんのことを思い出していた。
Bさん。一見垢抜けているよでいて、話し出すとハチドリのホバリングのよに止まらなくなる不器用な女(ひと)。彼女はBさんの不器用さをたまらない愛おしさでもって思い出した。
「こうさぁ、この列をまず順番に並べて…」と机に被さるかぶさる。臀部は後ろに突き出ている。
でもきっとあの折り、Bさんは自分が"女"を匂い立たせているという自覚は皆無だったんじゃないだろうかと彼女は思う。
つまるところあなたイケてる女イケてない女どっちだったの?ぎゅうぎゅう詰めの懐かしさをしなだれさせる対象が欲しいと、まるで下界のよな家並みを見ようと顔を上げると周辺視野にアオバハゴロモはいなかった。
今度はしっかり左を見るとやはりアオバハゴロモはいなくて空がバーッと開けた気がした、アオバハゴロモの不在とのあいだがピーンと張って、ポチャリと音がしたよで大気に波紋が満ちていく。静かに波紋が満ちていく。
静けさの、狭間に雌豹の瞳が光る。ゴーンゴーン。いつかの年の瀬の除夜の鐘の、その遠い響きを背景にして。
あれは夏の祭りの夜だったか。"あのお姉さんはけしからん腰つきをしていて、そしてわたしは軽く子供扱いされたんだった"
amp;#8212;「す、すいません順番、違いますっ」と彼女が言うと、女は男と顔を見合わせクスリと笑った。そして勿体ぶったような遅さで後ろに回った。そうして彼女は、女が狂ったよに咲く夢を見た。
TOP
