夢見るブーゲンビリア


ワンピースの袖口がひらひら揺れると
君の二の腕の純白が露わになる
春の夢を船がゆるやかに船出する
君は桟橋を息を弾ませて駆けてくる
その薔薇色の頬に僕は輝ける明日を見る

ねぇ
僕は君との別れを苦にしちゃいないよ
だって君はこの町に祝福されているから
花屋のボビーじいさんの顔の皺をよく見たことがあるかい?
それを刻んだ70年余の歳月は君をも
物哀しいまでの温かさで包んでくれている気がする

なぁじいさんは君が生まれるずっと前から
この町で花々を愛で続けてきたんだぜ
君はいわばそんな幾万の香りのさなかに
人としてこの町の大地へと咲いたんだ

躊躇なく言ってしまうと
じいさんは近いうちに死んでしまうかもしれない
花屋もなくなってしまう

でも僕には見えるんだよ
艶かしくなった君が静かに町角に佇んで
そっとありし日を偲ぶ黎明を
それは涼気佇む夏の日のこと

あとほんの少しで朝になるというとき
君は石畳に素足になって夢を見る
それは浜辺の貝殻の夢で
今では生命の存在しないその洞には緑の風が渦巻いていた

ああ僕はもう
君とともに夢を見ることは叶わないのだ
君はざわめきを聴くだろうか
妖しい詩(うた)にしとやかな肌を開くだろうか

やがて君は家に帰って
何事もなかったように母さんと二人で朝食を作る
さざ波は変わることなく打ち寄せているし
ユリカモメたちも集い始めている頃だろう

さまざまなものが流れていきながら
なにも変わらないようなこの町で
夢見るブーゲンビリアのように
君の瞳はしかし確かに色づいてゆく

また会う日まで




24/12/16 20:13更新 / はちみつ
いいね!感想

TOP


まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35c