貝殻に吹く風 ~桟橋を駆けてくる君~
ワンピースの袖口がひらひら揺れると
君の二の腕の純白が露わになる
春の夢を船がゆるやかに船出する
君は桟橋を息を弾ませて駆けてくる
その薔薇色の頬に僕は輝ける明日を見る
ねぇ
僕は君との別れを苦にしちゃいないよ
だって君はこの町に祝福されているから
花屋のボビーじいさんの顔の皺をよく見たことがあるかい?
それを刻んだ70年余の歳月は君をも
物哀しいまでの温かさで包んでくれている気がする
なぁじいさんは君が生まれるずっと前から
この町で花々を愛で続けてきたんだぜ
君はいわばそんな幾万の香りのさなかに
人としてこの町の大地へと咲いたんだ
躊躇なく言ってしまうと
じいさんは近いうちに死んでしまうかもしれない
花屋もなくなってしまう
でも僕には見えるんだよ
艶かしくなった君がそっと町角に佇んで
存在しないはずの花の香りを嗅ぐ黎明を
それは涼気あふれる夏の日のこと
あとほんの少しで朝になるというとき
君は石畳に素足になって夢を見る
それは浜辺の貝殻の夢で
今では生命の存在しないその洞には緑の風が渦巻いていた
君は胸にやさしくもざわついた何かを感じる
早朝の月の仄かな黄に呼ばれてるような気がしてくる
やがて君は家に帰って
何事もなかったように母さんと二人で朝食を作るんだ
あっ、ゴメン
その頃にはもう彼氏と同棲してたりするのかな?
群れになってユリカモメが舞うこの船上で
ただ静かなる君の明日だけを見ている
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