巡る言葉 ~凛々しい騎士とそばかすの乙女と~
いつだってあなたは、青い海を前にした騎士のように凛々しい女(ひと)だ。僕はそれこそあなたに成り変わりたいくらいに憧れているから、あなたを巡る言葉が溢れ出てくるのを止めることができない。
ねぇあなたは、いつも海風にオレンジの香りを感じてる。それは丸みがかった海の果てのさらに果ての、遥か南国からたなびいてくるんだ。
ケアンズというこじんまりした港町の、観光客向けレストランで働くそばかすのある健気な女(ひと)。日夜オレンジを洗ってジュースにしている。そんな彼女の可憐な手があなたより白いということがことに重要に思われる。あなたはアジア人で、彼女は白人だということ。
ねぇあなたを最初に騎士に喩えたけれど、僕はこの胸の底からその褐色の肌は騎士の衣装に似合っていると思ってるんだよ。それこそ白人騎士のお株を奪うくらいに似合っていると、本気でそう思ってる。何が言いたいかというと、あなたは白人以上に白人的で、それはそれこそ君が凛、と、やさしくも厳しい海原を見据える眼差しなんかに、アジア人らしい切れ長の目をしてるにも関わらず感じることなんだ。漲るように宿されているその意志のようなものから。
そんなあなたはそばかすの彼女を、あたかも自らが世界の主流を成す民族の一員であるかのような尊大さで訪れる。彼女は健気で腰が低いから、そんなあなたに戸惑いつつも受け入れる構えを見せる。しかしあなたは高慢を隠さない。それは彼女の愛らしい顔が仄かな不安に揺れるのを見るのが、あなたにとって快感だからだ。
ねぇ勘違いしないでほしいんだけど、もちろん僕はあなたが高慢だなんて言いたいわけじゃない。けれども高慢に"振る舞い得もする"という事実に、あなたという一人の女(ひと)の新鮮な力の源泉のようなものを感じたいんだ。なにより僕は最近、あなたがあどけない女(ひと)に"迫る"シーンに憑かれたようになってしまっているものだから。
アジア人など腐るほど相手にしてきているにもかかわらず、騎士たるあなたは彼女にとってほとんど異界からの来訪者のようなものだった。20は超えているのは明らかであるにも関わらず、彼女のそばかすは乙女の純潔の象徴のように南国の海辺に輝いていた。あなたが射すくめると透き通るような肌はか弱く翳ったけれど、その青い瞳には仄かな好奇が揺らめいた。
間違えて食事を出した彼女をあなたは単に強く、でなく、呆れたトーンで圧するように叱責した。そして夜も深まった頃、あなたはキッチンの彼女を訪れる。「悪かったな」と男優のような逞しさで、あなたは彼女の腰を取る。言葉になる手前の声を小動物のように彼女は漏らし、焦って体制を崩した彼女は背の高いあなたの胸へとしなだれる。
ねぇ、なんだってそばかすの女の子って可愛いんだろうね?ねぇ、なんだって白人の健気な女の子の健気さって、純度120パーセントに見えるんだろうね?そしてあなたの気高さは、どうしてそんなに甘やかさってやつと相性がいいんだろう?
あなたの吐息が、彼女の吐息と重なる。乱れているのはあなたなのか彼女なのか。それすらも分からなくなるくらいの、切なさで。
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