海獣とそばかす娘
いつだって、青い海を前にした剣士のような気持ちでいたいな。ほんとうは凛々しい女剣士がいいのだけど、哀しいかな僕は男だから、せめて情緒纏綿たる詩(うた)をうたって女女したい。
夢を追いかける折りにいつもオレンジの香りを想うのは私だけ?海風に乗って運ばれてくるように思うの。雲間からたなびいてくるようにも思うし、オーストラリアのケアンズの、健気なそばかす娘の店員の手に握られているような気もする。背に白い羽を生やして夢の世界を飛び回りたいな。彼女の実家はオレンジ農家で、一つ、また一つと木々を通り過ぎながら私たちは話をする。そばかすがコンプレックスなのと彼女は言う。コンプレックスに負けじとがんばってる女の子ってどうしてこうも可愛いのかしら、なんて私は夢だからって言いたい放題。私もコンプレックスがあるから、実は彼女はほとんど自分なのかもしれないとも思う。でもやはり彼女は白人で、英語っていう格調高いカチッとした言語を話す外人なのだ。ふやけた言語を話す軟体動物みたいな私を抱いて、と請いたい。恋。というより鯉かな私、彼女の痙攣するように美しい蕾をだらしない口で汚したい。なぜだか彼女は夜を知らない白昼の女(ひと)で、夜は存在できなかったり、するのだ。だからって私は夜を教えたりはしない。そうではなくて、一滴の黒の雫をそっと密かに持ち込んで、冷たいそれを彼女の秘密へと捧げたい。しなやかな海獣のように彼女はくねる。私は巨大な蜂のように彼女に迫る。"ねぇ、休憩にオレンジを食べない?"と彼女は言うけれど、それが気恥ずかしさを紛らわせるためのものであることを私は知ってる。愛おしくなって今度は、休憩する代わりにヒトに戻ってやさしくその体表を撫で続けてあげるの。彼女は女(ひと)に戻りたがるけど私はそれを許さない。ずっとずっと、そうして「彼女」を可愛いがってあげ続けたい、、
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