小倉駅の魔法使い


あなたはその儚げな手指に握っている
巻き付く蛇のデザインをしたステッキを

紺のジャケットにロングスカート
プラットホームに佇むならば
電車の行きさき魔法の国
いったい何百人の人々に
夢の国を夢見させてきたのだろう

近未来的な新幹線のプラットホームに
このいまあなたはスッとして
まるで似合ってないようで
逆にとても似合ってるような気もしたり

東京行きののぞみ号
どうせTOKYOまで行くんだろうと
僕はちょっと投げやりで
ガサツなOSAKAには目もくれず
Disney Land を眼差すんだろ?
まして僕は帰省するのだ
うらさびれた本州の片田舎へ

ああ
あなたはもう行ってしまう
僕も乗るけれども
新幹線が着いたならば見納めだ
ここ(北九州)には束の間の里帰りだったに違いない
だからここに再び戻ってくる折りにも
あなたに再会できる見込みはもうほぼない

地方都市に埋もれるには
あなたはあまりにも眩すぎたのか
大都会を統べる強欲な竜は
その鷲爪の紫の光沢であなたを誘惑し
そうして切れ長の目を切なげに逸らさせたのだ
ほどよく豊かなこの街から

ゆるやかに
そして名残惜しげに

僕は夢見る
あなたのため息が薄緑の風の精になり
この街の大地を仄かに染め続けてゆく情景を

僕は夢見る
運命の歯車が一つ違えば
あなたが華を咲かせていたかもしれないこの街で
遠くなりゆくあなたに負けじと
魔法のような詩(うた)をうたってゆく明日を

そうしてあなたは
長い長い車内へと消えた




24/12/08 08:18更新 / はちみつ
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