健気なキツネのような女(ひと)だった。



休日の朝に雨が降っているとホッとする
しとしとの音、それはゆっくり休んでねの声
濡れそぼったシダ植物がユーモラスに優しい

ハンガーに掛かっているブレザーの紺に
"コンッ"と私は狐になって

私はまだ身体を丸めて巣の中にいます
今日は森を縦横に駆けることはできません
しんなりとした雨音を聴いていると
カラッとした日々はまるで遠い夢のよう
たなびく雲のようなそれを私は
静かに目を瞑って胸の奥へと誘います

木々の合間に射し込む幾筋もの光
枝から枝へ移る小鳥たちの悦びの歌
愛らしい音色が止んだと思ったら
サラサラ、ザラザラ―
幾千の緑が風と戯れ始めている

光に影に、ざわめきに静寂にと
様々に織りなされるたおやかさのなか
悦びに溢れながら私は森に踊っている


でも、あともう少ししたら
私はこの住み慣れた森を出て
遥かなる平原へと旅立たなくちゃならないんだ

そのとき視界は一挙に開け
北風が冷たく吹きつけるでしょう

お陽さまはどこまでも優しいけれど
でもその陽射しにこの頬が、瞳が
眩く照らされるほどに、たとえば睫毛の上なんかで
物哀しさが切ないダンスを始めてしまうかもしれません

特別に哀しみを生きてるわけじゃない
だけど森のなかに大切なものを置き忘れているようで
あたかも後ろ髪を引かれるようにして
私は過去へと連れ戻されてしまうんじゃないかなってね

ねぇ
私たちがオトナになったとき
あの日の私たちは本当にその胸にいるのかな

日々はまるで砂粒のように
とどまる間もなく過去へ過去へと吹かれいってしまう

胸の奥には、日々の朧な記憶が積もっている
けれど拡大鏡を当てるように見つめてみても
それはまるで魂の抜けた抜け殻の映像のようで
感じていたはずの切実なものたちの消息に、触れることができなくて

ちょっと待って―
わたしはまだ、昨日の自分が分かってない…

世界に1人佇んでいるように感じることに
果たしてどんな意味があるのかとか…
なんて言うと、高尚な女みたいかな

たとえばよ―
一人ぼっちの孤独を自分で慰める心地よさを追求したら
何か新たな生き方に目覚めるかもしれないとか
つまり私が言いたいのは、そういうことなの

そんな大切なことたちを、私はまだ分かってない…

遠い遠い、いつの日かの
たとえば雨上がりの朝なんかに
胸の奥に光が―それこそ森の木漏れ日のような―
仄かで懐かしい光が射し込んできたりして
そうして今日の日々を救い出すことができるというのだろうか
煌めく砂粒を、この両手で掬うことができるというのだろうか







 過去作を編集したものです。さっそく新たな小説書き始めたんですが、書き始めてしばらくしてから、そういえばあんな詩書いてたな、って思い出しました(笑)少ししてから掲載してますが、同じキツネにまつわる話なのに(汗)

 過去ってやっぱりどんどん遠のいてくものなんですね。とするとつまり、いま書かなくちゃ書けない過去がある。もっと言えば過去の総決算というものがある。いままでならそれは断片だったり無理やりの物語化だったりしかできなかったけれど、いまなら"掬い出せる"と、シームレスに繋いでいけると、そんな気がします。それをどこまで深められるかまだ分かりませんが。


健気なキツネのような女(ひと)だと思った。彼女に見つめられた折りまったき若さがパカアッと飛び込んできた。そこだけ異次元みたいだった。

…つまり僕はあなたたちがさきほどからすでに、「彼女≒健気なキツネ」という等式を僕が大事に大事に胸に抱いていることを当然のように認識してきていることを期待している。…

 そんなわけで、さっそく書き始めました。↑は途中の一節ですが、ちょっとガチに内省的な文体に自然となっちゃってます(苦笑)ですが流れに従おうと思っています。例えるなら保坂和志的な?あるいは阿部和重の「アメリカの夜」のような?、そんな文体なのかなあと。ただ僕のことなので例によって文体や人称でさえも変わるかも(笑)。しかしいずれにせよ今回は語りが長く、緩やかな語りの中に切なるものを、小出ししていくように徐々に徐々に浮かび上がらせていくことができそうです。

 朝だいたい1時間ほどで夕方は書かないと、きっぱりそう決めて長い目で見た作品作りをしていきたいです。一ヶ月ほどで書き上げられれば理想かなと、いまのところ。

 夕方はするとしたら詩作と決めてるので、またちょくちょく投稿再開するかもなので、その折りはよろしくお願いします☆♪

 ちなみに「アメリカの夜」はふつうに読みましたが保坂和志さんの小説は立ち読みしただけです(笑)ただ(、)でツルツル繋いでいくなんというか飄々とした?文体はすごく胸に残ってます。

 他の作家で言えば、島田雅彦さんのデビュー当時の 次へ
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