手渡せなかった手紙と、送れなかった手紙と


序.
 幼い自分の雰囲気をよく理解していて、誰に対してもへりくだるような女(ひと)だった。誰とでも仲良くする器用さは持ち合わせてなくて、頻繁にそのきらびやかな愛想笑いを距離を保つために振り撒いていた。玄関口で靴を仕舞う折の研ぎ澄まされたように孤独な横顔を、忘れることができない。

 まさか彼女は僕が彼女に、1つの理想の生き方を見ては崇めているなどとは知らなかっただろうと思うと、なんだか不思議だ。職場を去って半年になる今、彼女の中で僕という存在は消えかかっている。僕の中で彼女という存在は、孤独を感じている今さらに大きくなっている。燃え揺らめく、焔のごとく。

 言い忘れてたけれど、生きてきた38年近くの中でも彼女は飛び抜けて可愛いかった。あの鳥肌が立ってしまうような、健気で澄んだ美のトーン。転居した、遥か遠いこの街の空に、探って。彼女のようにありたいから、僕は詩を書き続けているのかもしれない。





1.
 君と夜空を見上げたりするのは、それは素敵なことだとは思う。でも叶うことなら、僕は君とモスで一緒にハンバーガーを食べたいんだ。 
 
 サイゼでもドトールでもなくモスってところ、君は分かってくれるかな?ちなみにマクドじゃなくモスなのは、モスのがだいぶ落ち着いてると思うから。じゃあなんでレストランや喫茶じゃなくてモスなのかというと、それはモスがあくまでファストフードのお店だからなんだ。
 
 ファストフード店って、どうしてだか分かんないけど、なんだか気分を上げてくれるところ、あると思わないかい?アゲアゲ、みたいなさ(笑)サイゼもドトールも、やっぱりちょっと落ち着きすぎてる。
 
 僕は君とざっくばらんに語り合いたいんだ。いつもどこか物憂げで儚げで、そんな雰囲気を纏ってる君だからこそ、その亜麻色の瞳が溌剌と煌めくところを想うだけでもう、この胸は悦びと、そして誇らしさで一杯になる。だってそれは、奥ゆかしい君という女(ひと)を快活にさせる力が、この僕にあるという証明になるから(笑)
 
 重い話でゴメンなんだけど、君を見てるとなんだか泣きたくなることがある。誰にでも愛想良くしてるけれど、そのじつ、本当に友達と呼べる人は誰一人いないってこと、僕は知ってるんだ。
 
 それなのにいつも君はなにか、大切な何かを胸にしかと秘めたような眼差しで、澄みながらも深みのあるような眼差しで、そうして作業をしているよね。そんな気高さだとか、自分をしっかり持ってる感じだとかに、僕は猛烈に惹かれてる。でもときどき思うんだー本当はちょっぴり、無理してるんじゃないの?ってさ…
 
 なんてね。ゴメン、つい自分の世界に入り込んじゃった(汗)でもそれこそ、不満の1つや2つあるだろうしさ、ほんとう今度、是非一緒にモスに行こう!そうしてこの世界のやなこと全部、空の果てまで笑い飛ばしてしまおうぜ!
 
 あっ、もちろん、君の素敵な趣味の話も大歓迎だよ。未来の大詩人さん☆♪





2.
 アラサーなのにあどけなかった君は、でも性格はしっかりしていたから、結局のところ本質的にはあどけなくもなんともなく、ただこちら側がその声色に、少女の幻想を被せていただけなのかもしれない。

 そこら辺の大人より、むしろ逆に澄ましているようだった君。冷たいとまでは言わないけれど、最低限の愛想しか振りまいてくれなかったのは辛かったな。でもそれだからこそ逆に、僕の君への幻想は膨らんでいったのかもしれない。

 そんな君の声色がいつもよりちょっと親しげだったりしようものなら、その夜はもう大変だ。能面のような君の顔は天真爛漫な少女のそれのようになり、幼く未熟な話を君は矢継ぎ早に話し始める。話し方は利発で明朗で、繊細ですらある。でもやはり根本の内容の部分でそれは決定的に幼くて。

 そんな君は僕に同意を求めてくる。潤んだ瞳で子犬のように見上げながら(彼女は150cmで、僕より20cm背が低い)。僕は「大丈夫」と言うだけ。「大丈夫、大丈夫だから」と。でもその言葉をこそ求めてた君は、愛らしい華奢な腕を絡めてきて、やはり潤んだ瞳で見上げながら言うのだー「ありがとね」

 君から離れ、酔いから覚めつつある今は、現実のどこにもいない女性とイチャついて何が楽しかったんだろうと、不思議にすら思う。だけど胸の中ふとした折に、君に見つめられると気づけば僕は、そこからデレデレになっていく想像ーもとい、妄想ーを、相も変わらず始めてしまっている。

 あまりにも妄想を繰り返し続けてきたせいでもう、君の視線を浮かべるなり自動的にデレデレが始まるようになってしまっているのだ…と、そうシステマティックに考えることで、なんとか君の圏内から脱出しようと奮闘しているところだ。

 最後に一言伝えたいのだけど、僕は何気にクール 次へ
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