シームレスなツン→デレ
アラサーなのにあどけなかった君は、でも性格はしっかりしていたから、結局のところ本質的にはあどけなくもなんともなく、ただこちら側がその声色に、少女の幻想を被せていただけなのかもしれない。
そこら辺の大人より、むしろ逆に澄ましているようだった君。冷たいとまでは言わないけれど、最低限の愛想しか振りまいてくれなかったのは辛かったな。でもそれだからこそ逆に、僕の君への幻想は膨らんでいったのかもしれない。
そんな君の声色がいつもよりちょっと親しげだったりしようものなら、その夜はもう大変だ。能面のような君の顔は天真爛漫な少女のそれのようになり、幼く未熟な話を君は矢継ぎ早に話し始める。話し方は利発で明朗で、繊細ですらある。でもやはり根本の内容の部分でそれは決定的に幼くて。
そんな君は僕に同意を求めてくる。潤んだ瞳で子犬のように見上げながら(彼女は150cmで、僕より20cm背が低い)。僕は「大丈夫」と言うだけ。「大丈夫、大丈夫だから」と。でもその言葉をこそ求めてた君は、愛らしい華奢な腕を絡めてきて、やはり潤んだ瞳で見上げながら言うのだー「ありがとね」
君から離れ(彼女は前の職場で同僚だった)、酔いから覚めつつある今は、現実のどこにもいない女性とイチャついて何が楽しかったんだろうと、不思議にすら思う。だけど胸の中ふとした折に、君に見つめられると気づけば僕は、そこからデレデレになっていく想像ーもとい、妄想ーを、相も変わらず始めてしまっている。
あまりにも妄想を繰り返し続けてきたせいでもう、君の視線を浮かべるなり自動的にデレデレが始まるようになってしまっているのだ…と、そうシステマティックに考えることで、なんとか君の圏内から脱出しようと奮闘しているところだ。
最後に一言伝えたいのだけど、僕は何気にクールな君も好きだった。本当の話なんだ。信じるか否かは、もちろん君の自由だけれど。
水鏡のように澄んだ君が、ほんとうの君が、なんだかいまつとに懐かしくて、愛おしいんだ。
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