霜の翼を祈りに乗せて

ずっとずっと、君は静かに歩んでたんだ
華奢な肩に小さく可憐な胸を運んで
海鳴りに、遠く人々の鼓動を夢見ながら

あの日、ベルクハイデには夢が降りしきっていた
君の、あの安らぎに満ちた横顔
牡丹雪が君と僕を隔て続けるなか
亜麻色の瞳は雑踏を映しながら曇天を抱いていた

永遠っていうものがあるならば
あの日君はそれを抱いていたのだろう
それはくすんだ灰色で、まるで
人々の明日のような物哀しい美しさをしていて

君が仄かにも哀しみを背負おうとしてるんじゃないかと
薪を焚べるのにも一苦労な君の肩を想って
僕はその場で君を抱きしめたくなった
牡丹雪なんか全部なぎ払って  


舟旅から帰ると僕は温もりに安堵したけれど
君はやさしくもどこか悲壮な目をしていて

星々は大地に射すように輝いていた
意を決した瞳の、幾万もの象徴のように

その昔―といってもほんの少し前のことだけれど
まるで人魚のようにしとやかな腰つきで君は
黄昏の広場をゆっくりと回りながら夢を口ずさんでいたよね
十八番の歌をうたうように優美で
その心音が明日に響くかのように温かくって
僕より人々なのかい?と言いたくはあったけれど
その瞳は少女のはにかみで潤んでいた
でもあの日、亜麻色の湖面に降り積もった灰色の夢は
君を物哀しく現実的なトーンで染め上げてしまった

ねぇ、僕は
無邪気に微笑み続ける君を見ていたいよ
透き通る夢に焦がれる乙女でいてほしいよ
でも君は選ぶんだね
人々としかと見つめ合い
ときに冷たい手を取りながら
ほんのりと哀しい明日をともに歩いてゆく道を

暖炉の焔は消えかけていた

目を瞑ると
ひたむきな君が凍てつく夜空を翔てゆく
華奢でなだらかなその背中は小さくて
小さくて
その瞳が凛々しく煌めくほどに切なさが零れ
"君の前途に幸あれ"―
隔てられた遥かなる距離を翔けてゆけと
霜の翼を祈りに乗せて


24/07/16 16:05更新 / はちみつ
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