故郷と少女と、僕と
町の駅でバスに乗ると、山あいの町(というか村)への半時間の旅が始まる。ごちゃごちゃとした界隈を曲がりくねりながら抜ける。すると鼻筋みたいにしっかりとした県道が開けて、それは合間になだらかな蛇行を挟みつつ、僕をほとんど真っ直ぐに川沿いの町へと運んでくれる。
彼女はその町で降りたのだった。乗ってきた折は"早退かな?体調でも悪いんだろうか?"くらいにしか思わなかったのだけど、穏やかな円形の敷地に降り立ったその素顔には、曇天の下でもその気だるげな亜麻色の瞳が、哀しくなるくらいにくっきりと浮かび上がっていて。
駅のすぐ近くの交差点の向こうには僕の通っていた小学校があって、駅からは、写真映えしそうな程よい斜めの角度で、まるで見守られているみたいに時計を戴いた白い校舎が見える。彼女ももちろん、あの学校に、燃えるような緑の山に抱かれたあの学校に、通っていたのだろう。
バスは駅を境に右に直角に曲がり、そうして川沿いに上へとひたすら向かってゆく。乗客はもう、僕とおじいさんの2人になっていた。ちょうど故郷との中間の町(村)でおじいさんは降り、いよいよ1人になった。
残すは最後の二駅というところで、道路と川は限りなく接近し、車窓からは緩やかに蛇行する川の、その懐かしい煌めきが目に飛び込んでくる。
故郷にバスが止まった。去ってゆくバスの音までもが、僕を昔に連れ戻すかのようだった。ふと顔を上げると山は驚くほどに近くて、学校を抱いていた山の緑よりもさらに鮮明な、文字通り燃えている緑に呑まれそうになる。
燃えている、萌えている……この町(村)でもまた、少女たちは女へと向かって、その内なる切ない焔を燃えたぎらせている。そして僕は今やもう、ただそれを呆けたように眺めることしかできないのだ。
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