君との別れ
"小雨を浴びるのが好きなんです"と、君はいつか言った。今日は雨の日―と、思いきや降っているのはこの朝だけで、すぐに晴れ始めるとの予報。
まあ、いいか。しっとりとした雨のなか名残り惜しげに別れるというのは、もちろん趣があるけれど、梅雨時の晴れのなか互いの幸福を祈り合うというのも、それはそれで記憶に残りそうだ。気だるげな熱気の狭間に、一抹のクールミントのごとく君の笑顔がキラリと光る……
考えてみれば君と会うたび、会うたび、ともに熱帯夜を過ごしてきたようなものだった。だからクールミントって表現は大げさでもなんでもない、たしかでリアルな現実になるだろうと、僕は少しさきの未来を見据えて。
なんだか頭がボーッとしている。君は、僕を選ばなかった。でも不思議なことに、君に選ばれなかったことを大して悲しんではいない自分がいて。それでも僕は、君と出逢えたことを、今まで生きてきた中での最大の奇跡だったように感じてる。君とのあの日々をただ、ただおおらかに、感じてる。
出逢えたこと。そして今日という日に、別れること。一夏の夜の秘め事の後の、昼のようで。その最中で君が、君の最後の笑顔が、遠のいてゆく―
人生という道の途上。出逢わなかったはずの君との、ささやかな戯れ。振り返ればほんの一瞬の戯れのようで、でもそれはこの世界でたしかに僕を包んでくれた、そんな温かい泡立ちのような記憶として、この胸にある。
お元気で―
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