離散家族
小さくちぎった新聞紙
丸めてバケツの水に浸す
指先から冷たさが伝ってきた
「新聞紙で窓を拭けば、綺麗になるよ」
そう教えてくれたのは
かつてお世話になった
教会牧師の奥さんだった
年末が近づくと
日曜礼拝の後決まってみんなで掃除だった
一階の集会所や二階の礼拝堂からは
掃除機の音や楽しげな声が聞こえ
何だか賑やかだった
子供ははしゃぎ
大人たちもそれにつられて笑顔となった
兄弟姉妹という枠組みで
まるで家族のような関係
赤の他人同士が
世代も生まれ育った環境も超え
ひとつとなっていた
あの日以来、牧師夫婦が引っ越してからは
教会には立ち寄っていない
ごく親しい姉妹とは年賀状のやり取りのみ
新しい牧師が就任した後
日曜日にふいに通りがかっても
誰もが疲れたような表情で
まるで私のことなど目に見えていないよう
もはや私たちは皆
ボロボロにちぎられた新聞紙
手先を凍らすような濁り水にふやかされ
やがて繊維が溶かされ離散してゆく
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