人魚の涙

透きとおるほど美しい海に伝わる伝説は
哀しみの泡となって今も水面を漂う
愛しい人のために流したあの人魚の涙も
広大な海の中へと埋没し
深い淵へと還ってゆく

あぁ、静かに波立つ碧い水しぶきが
夢の中へと誘う子守唄となって
夢幻(まぼろし)の詩(うた)を紡ぎだすけれど
愛する人の元へは何も残らず
いまや人魚の想いを彼に伝える術もない
ただ、苦悩の波が揺らめきながら輝き
人生を捧げた全てを讃え、昇華してゆく

天から濯ぐ光は煌く鱗となって
遥か彼方、沖のほうへと運ばれ
人魚の奏でる音色とともに
前世から来世へと
脈脈と受け継がれてゆくだろう

甘く切ない恋心をこれからも
何千何万もの世界の乙女達が見聞きするならば
わたくしは人魚の流した涙の代わりに
船縁から身を投げ出そう
人魚が愛する人のため
我が身を海に捧げたように
わたくしも天から授かりしこの身も心も彼に授けよう

私の生き血は海辺に浮かぶ泡となり
やがて遠い彼方へと受け継がれ
歓びの唄を紡ぎだす虹となって
天を駆け抜けてゆくだろうから・・・

24/08/27 00:32更新 / 秋乃 夕陽
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