幻想の珠

かけがえのないものを喪くしてしまったんだ
それはまあるくて透明な硝子のように冷たい
サッカーボールぐらいの大きさの球さ
純粋で壊れやすく
くしゃみをしただけで
粉々に砕け散ってしまいそうな
柔な物体

もうドコにも手に入らない
僕だけの特別なモノだったのに

あぁ、それなのに・・・!
僕とした事がどうしてこうも簡単に
手放してしまったのだろう!
箪笥の中だって
ゴミ箱の中だって
部屋中どこを探しても見当たらない
僕はドコにしまいこんでしまったんだろう

指で触れるたび
紅い直線が血で滲みながら描かれてゆく
幻想(ユメ)の珠よ
内から発せられる優しい光は
僕の鋭くとがった針金のようなココロを
鈍くなだらかに変えてゆく
愛しいヒトの忘れ形見よ

あのヒトの事は片時も忘れないと
固く信じていたのに
大切なヒトの顔すら
もう、どんな姿カタチだったのか思い出せない
そう、まるで水溜まりを掻き混ぜたみたいに

様々な色彩が入り乱れ
濁った黒へと変色して
僕の拠り所は珠とともに失ってしまったんだ

あぁ、頭を抱えてうずくまる僕を許して・・・

愛しい君からの贈り物
遥か遠くの記憶から呼び起こられる
君と僕のふたりだけの宝物

僕は君の事だけは一時も忘れたくなかったのに・・・。

24/08/22 11:24更新 / 秋乃 夕陽
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