さらわれる
ねばついた 血糊のような夕焼けが
目の奥底まで流れ込むと
ポケットの中で握りしめた
家の鍵が錆びついていきます
丘の上の小さな公園で
子供達が手放した風船は
ゆっくりと 赤黒く光りながら
危なげな軌道で雲に溶け込み
帰り道で曲がる角や
さっき別れた友人の顔
僕はそれらが一つ また一つ
うろ覚えになっていきます
電柱に貼りつけられた
行方不明者の色褪せた写真
乗り捨てられた三輪車
ぼろ家の庭 空の犬小屋
見渡せばもう其処彼処から
影が滲み出し さざ波をつくり
それは誰かが零した涙の泡粒
呼び声のように響く潮騒
押し寄せる仄暗い気配に
絡みつかれ 足を取られ
立つことも儘ならなくなった僕は
独り 黄昏の淵に取り残されます
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