ほうけてた
鈴虫が頭の裏で鳴き止まないから
今が朝だか夜だか分かりません
寝間着の裾は寄れているのに
寝癖一本ありません
お母さんは読めない字で書いたメモと
焦がした時計の針を皿に乗せて
鍵も掛けずに出掛けていました
それならきっと朝でしょうか
カレンダーは捨てられていたから
日付も曜日も分からないけれど
寂しくなるほど軽いランドセルを背負って
通学路を歩きます
路肩では知らないおじさんやおばさんが
赤く腫れた目で空を見上げて
ため息からはお酒の匂いがしました
それならやっぱり夜でしょうか
僕もつられて空を見ると
友達の顔がいくつも浮かんでいます
顎に結ばれた糸を大人達が引っ張って
みんなのことを揺らしています
どうして泣いたの?でも笑うの?
嬉しいから泣いた 悲しくて笑うの
みんなはみんなのお父さん?お母さん?
僕は僕だ 私は私よ
今日は昨日なの?それとも明日?
昨日は明日さ 明日は昨日ね
それなら今日は?今日はいつなの?
昨日も 明日も 今日も 今だよ
そしてぷつりと糸が切れて
友達は一斉に遠く飛んでいきました
僕の体もそれを追いかけるように
ゆっくりのんびり浮かびだして
そうでした 今は昼でした
僕は裾の寄れたワイシャツを着て
無意識に何かを手繰る仕草をしながら
公園のベンチで空を見上げています
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