昨日へ

思い出が敷き詰められたあぜ道を
馬車はゆっくり進んでく
輪っかがきらめく小石を踏んで
泣き笑いみたいに軋んで

真昼の空はくすんだ鏡
見上げる僕のいびつな顔を
誰かの優しい面影と混ぜて
入道雲を映し出す

父さん 母さん じいばあちゃん
昨日への旅は遠いです
届ける手段のない手紙を
幾つも幾つも書いてます

あいつも あの子も みんな揃って
反対の方へ行きました
色んな背中を見送る度に
何度も何度も手を振りました

耳と目尻を垂らしたロバは
ムチを打っても知らんぷり
足もとばかりに気をとられて
前を見ないで歩き続けて

かすかな揺れにあやされながら
僕はゆっくり進んでく
張りぼての太陽の下
霧を突き抜けて建つ門へ


23/02/10 21:47更新 / わたなべ
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