昨日へ
思い出が敷き詰められたあぜ道を
馬車はゆっくり進んでく
輪っかがきらめく小石を踏んで
泣き笑いみたいに軋んで
真昼の空はくすんだ鏡
見上げる僕のいびつな顔を
誰かの優しい面影と混ぜて
入道雲を映し出す
父さん 母さん じいばあちゃん
昨日への旅は遠いです
届ける手段のない手紙を
幾つも幾つも書いてます
あいつも あの子も みんな揃って
反対の方へ行きました
色んな背中を見送る度に
何度も何度も手を振りました
耳と目尻を垂らしたロバは
ムチを打っても知らんぷり
足もとばかりに気をとられて
前を見ないで歩き続けて
かすかな揺れにあやされながら
僕はゆっくり進んでく
張りぼての太陽の下
霧を突き抜けて建つ門へ
TOP