幼児(おさなご)の風船
腐りかけたベランダで
肺の奥底から煤けた息を搾り出し
小さな風船を膨らませては飛ばした
幾つも 幾つも
幾つも
無垢な瞳で町を漂ったそれらは
全て幼児の顔をしていた
様々な物事を見聞きし感じる度に
頬を赤らめ健気に揺れた
安らかな表情の傍らで
寂しさにすすり泣く声や悲痛な叫びが
夕暮れ時の空を掻き回した
何度も 何度も
何度も
気まぐれな風に押し流され
廃屋の屋根に絡まったまま萎んだ顔や
意地の悪いカラスの群れに
しつこく突かれ弾け散った顔
傷や汚れをつけながら
幼児の風船は雨雲を押し退け
ゆっくりと舞い上がっていった
何処までも 何処までも
何処までも
やがて面影は瞬く星のように
虚ろな夜の彼方へ溶けて消え
切り離された無数の紐が
淡い光と共に降り注いだ
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